11. 肺癌と肺腫瘤陰影の鑑別診断について
新しい3つの鑑別診断方法
新しい鑑別診断方法として、
①MRIの拡散強調画像(DWI)と T2強調画像(T2 WI)を組み合わせて鑑別診断する方法
②拡散強調画像で、肺腫瘤の内側と外側のADCの比(inside/wall ADC ratio)を用いて鑑別診断する方法
③肺腫瘤の全病変を用いたADC histogram (whole-lesion ADC histogram) を用いて鑑別診断する方法
が、有効なことを報告しています。
最初の方法①: 拡散強調画像(DWI)とT2WIともに、肺腫瘤の鑑別に有効です。2つを組み合わせることにより、DWIの弱点とされる肺膿瘍と肺がんの鑑別診断が可能となります。T2 WIでは、水が白く描出され、質的評価が可能です。
2番目の方法②: 拡散強調画像(DWI)では、肺腫瘤によって、その内側と外側のADCが異なり、そのADCの比(inside/wall ADC ratio)が、肺癌と肺膿瘍の鑑別に有用です。肺がんでは外側のADCが小さくことが多く、肺膿瘍では内側のADCが低いことが多いことを利用しています。
3番目の方法③: 肺膿瘍や抗酸菌感染症では、DWIにて、広範囲に内側を中心に拡散能が強く低下します。腫瘤全体から算出したADC histogram により、いくつかのADCのパラメータにて、肺癌と肺膿瘍と抗酸菌感染症 (PAMIs)との鑑別診断が可能です。
最初の方法①: DWI & T2 WI (Figure 33-35)
Usuda K, et al. Combination Assessment of Diffusion-Weighted Imaging and T2-Weighted Imaging Is Acceptable for the Differential Diagnosis of Lung Cancer from Benign Pulmonary Nodules and Masses. Cancers 2021, 13, 1551. https://doi.org/10.3390/cancers13071551
要旨: この研究の目的は、肺がんと良性肺腫瘤との鑑別に、DWIとT2 WIの併用は鑑別診断能力を向上させるかどうかを検索することである。悪性腫瘍と診断するするための至適カットオフ値 (optimal cut-off value :OCV) は、ADCが 1.470 × 10−3 mm2/s、T2 contrast ratio (T2 CR)は 2.45 であった。肺がんの ADC (1.24 ± 0.29 × 10−3 mm2/s) は、良性肺腫瘤の1.69 ± 0.58 × 10−3 mm2/sより、有意に小であった。 肺がんのT2 CR (2.01 ± 0.52) は、良性肺腫瘤の 2.74 ± 1.02より有意に小であった。 ADCのOCVで解析すると、感度は83.9% (220/262), 特異度 63.4% (33/52), 正診率は 80.6% (253/314)であった。一方、 T2 CRのOCVで解析すると、 感度は 89.7% (235/262), 特異度は61.5% (32/52), 正診率は 85.0% (267/314)であった。DWIとT2WIの両方で悪性と判断された121例では、203 例 (95.8%) が肺がんであった。DWIとT2WIの両方で良性と判断された33例では、23 例 (69.7%) が良性肺腫瘤であった。DWI と T2WI の併用評価は、肺腫瘤の鑑別診断をさらに正確にし、鑑別診断として受け入れられる。
2番目の方法②: ADC & inside/wall ADC ratio in DWI (Figure 36-40)
Usuda K, et al. How to Discriminate Lung Cancer from Benign Pulmonary Nodules and Masses? Usefulness of Diffusion-Weighted Magnetic Resonance Imaging with ADC and Inside/Wall ADC Ratio. Clinical Medicine Insights: Oncology 2021, 15: 1-9. https://doi.org/10.1177/11795549211014863
要旨: DWIは肺がんと良性肺腫瘤の鑑別診断に有用であるが、肺がんと肺膿瘍の鑑別は、肺膿瘍も拡散の低下を認めるため、難しい場合が多い。この研究の目的は、肺腫瘤の鑑別診断に、病変のADCとinside/wall ADC ratioとをどのように評価するかを、示すことである。
肺がん 40 例, 炎症性良性肺腫瘤41例 (抗酸菌症 13, 肺炎 12, 肺膿瘍 10, その他 6)、非炎症性良性肺腫瘤7例を対象とした。 wall ADCは病変の外側1/3のADC, inside ADCは病変の内側2/3のADC, inside/wall ADC ratioは、inside ADCをwall ADCで割ったものと定義した。肺がんの mean total ADC (1.26±0.32 x 10-3mm2/sec) は、良性肺腫瘤の1.53±0.53 x 10-3mm2/secに比較し、有意に小であった。 mean total ADC values は、肺がんで1.26±0.32、 炎症性良性肺腫瘤で1.45±0.47、非炎症性良性肺腫瘤で 2.04±0.63であり、各群間に有意差を認めた。肺がんの mean inside ADC value (1.33±0.32) は、肺膿瘍の 0.94±0.42に比較し、有意に大であった。肺がんの mean inside/wall ADC ratio (1.20±0.28) は、 肺膿瘍の0.74±0.14に比較し、有意に大であった。DWIのADC を用いて、肺癌と良性肺腫瘤の鑑別は可能であるが、DWI のinside/wall ADC ratio は、肺がんと肺膿瘍の鑑別に有用である。inside/wall ADC ratioを用いることにより、DWIの弱点が補強できる。
3番目の方法③: Whole-lesion ADC Histogram in DWI ( Figure 41-44)
Usuda K, et al. Whole-lesion Apparent Diffusion Coefficient Histogram analysis: Significance for Discriminating Lung Cancer from Pulmonary Abscess and Mycobacterial Infection. Cancers 2021, 13(11), 2720; https://doi.org/10.3390/cancers13112720
要旨: MR拡散強調画像 (DWI)により、悪性肺腫瘤と良性肺腫瘤の鑑別が可能である。しかし、PAMI(肺膿瘍+抗酸菌感染症)は、DWIで拡散能の低下を示すため、肺癌とPAMIの鑑別は困難である。この研究の目的は、肺癌とPAMIの鑑別のためのwhole-lesion ADC histogramの役割を示すことである。肺がん 41 例 (腺がん 25例, 扁平上皮がん 16 例)および PAMI 19例 (肺膿瘍 9 例, 抗酸菌感染症 10 例)を対象とした。Medical imaging software, BD score (PixSpace, Fukuoka, Japan) を肺腫瘤全体のADC histogramの解析に用いた。Area under the ROC curve (AUC) が60%より大きなADC histogramのパラメーターは、ADC, maximal ADC, mean ADC, median ADC, most frequency ADC, kurtosis of ADC とvolume of lesionであった。また、肺がんとPAMI間で平均値の差に有意差があったパラメーターはADC, mean ADC, median ADC、most frequency ADCであった。 1スライスで計測した肺がんの ADC (1.19 ± 0.29 x 10-3mm2/sec) は、PAMIの 1.44 ± 0.54より有意に小であったが (p=0.0262)、 逆にwhole-lesion ADC histogramでは、肺がんのmean ADC, median ADC, most frequency ADC は、PAMIのそれぞれのパラメーターより大であった。 whole-lesion ADC histogramで、いくつかのADCパラメーターのAUCが60%より大きく、 いくつかのADCパラメーターが肺がんのそれより小さく、 PAMIと肺がんは鑑別が可能であった。whole-lesion ADC histogram の解析により、PAMIと肺がんの鑑別診断は可能である。